はるしにゃんが出会って3ヶ月後に死んでしまった話
前書き
前置き
はるしにゃんさん(以下彼)が死んだ(らしい)。
そのニュースがネットに流れ、反論もなく、その話題も収束しているところをみると、まあ、ある程度は確からしいのだろう。
僕が物心ついてから、自分と関係がある人間の死は彼が初めてである。だから彼の死は、それなりに僕に考えさせるところがあった。しかし、人間は忘れる生き物である(当たり前だけど)。現に今、彼の記憶はだんだん薄れているように思う。それはもしかしたら良いことなのかもしれないが、僕は少し嫌だ。なぜなら死者の記憶を忘れてしまうことは、彼が存在を消してしまうことのように思えるからだ(よく言う話だけど)。まあ、そんな訳で、ここで文章に書いて残しておこうと思ったわけである。
しかし、なぜここ(ブログ)なのかという疑問が当然あると思う。それは、彼の死が現代において他人事ではないように思えるからだ。そして、その思いは彼の死も含めた様々な理由で強くなった。その結果、僕はメンヘラ研究をしてみようかなと思ったのだ。メンヘラ研究の目的等、詳しい内容についても勿論述べたいとは思っているが、1メンヘラの事例として、はるしにゃんのことは取り急ぎ書いておきたかった。つまりこの文章はこれから続けていく(予定)メンヘラ研究の始まりということである。そして、メンヘラ研究は考えている限り、共有する意味がある。そんな訳でブログに書くことにしたのである。
前置きする理由
さて当たり前のことをグダグダと前置いたが、なぜ、書く必要があったかというと、僕は彼とそれほど親しかったわけではないからだ。僕は彼とは今年出会って、死ぬまでの間に3回しか会っていない。だから、「さん」をつけるし、正直良く知らない。そんな彼のことをそれほど良く知らない僕が、なんお前置きもなしに、ネット上で彼のことを語るのは、もしかしたら気を悪くする人もいるかも知れないと思った。だから、僕はせめてもの誠意として、前置いておかなければならなかったのである。
というような事情があるので、ご意見のある方はお気軽にお願いします。
これで前置きは終わって、彼の話をしていきたいと思う。
最初の対面
Twitterメンヘラ界のカリスマ
そもそも彼のことを知ったのは、知人に教えて貰っての事だった。
知人とはTwitterで知り合ったのだが、所謂Twitterメンヘラ界隈と近い人だった。そんな知人からTwitterメンヘラ界で有名な彼のことを教えてもらったのである。そんな訳で、彼のことフォローしてみたり、ネットで色々に調べてみた。すると、どちらかというと悪い噂が目立ったのだけど、なんだか面白そうな人だなぁということがわかった。
ファーストコンタクト
そして数日が過ぎたある日、なんとなく暇と好奇心に任せてLINEで連絡して見ることにした(彼はよくTwitterに自分のLINEのQRコードを載せていた)。
彼は僕のTwitterのbioを見て「良さ感」を感じたようで、通話で話そうということになった。僕はネット上で会った人と通話をする経験がが少なかったので、緊張しながら話したのを覚えている。彼はまあ、勿論というべきか慣れていて、緊張する僕なんてお構いなしに、初めて話すというのに親しげで、よく喋った。確か、自己紹介をして演劇や哲学、思想の話をしたと思う。彼とはいま確認すると、40分弱話したのだけれど、その短い間でも彼の異様さというか、メンヘラ感というか、カリスマ性というかは否応無く感じた。あと少し早口で、聞き取りづらいなあとも思った。そして、それほど僕が面白いことを言った記憶はないのだけれど、彼は興味を持ったようで、これから読書会(現殺会だったのだろうか)をやるから今から会わないかという話になった。僕としては怒涛の展開である。正直少し面倒くさかったのだけれど、まあ、そこはノリと好奇心で、会うことを了解し、急いで準備をして家を出た。
都内、カラオケ店にて
彼とは都内のカラオケ店で待ち合わせをした。僕はドキドキしながら、指定の部屋に入ると、そこにはなんだか妙に尖った人がいた。あ、いや、尖ったっていうのはほんとに物理的な意味で、カイジかなと思った。
彼は電話と変わらず相変わらずに親しげに話しかけてきて、僕にかっこいい顔でしょとしきりに問うてきた。僕はどうして良いか分らず曖昧に笑って難を逃れた。そして、わざわざ来てくれたからと言って、何故かプロテインをくれた。謎である。プロテインは初めて飲むのでよく分らず、取り敢えずその場で飲み物に入れて飲んだ。氷にくっついてもったいなかったので氷まで食べたのだけれど、あまり美味しくはなかった。
その後、彼は重そうな少しダサい肩掛けカバンから沢山本を出してきた。全ては覚えていないけれど、彼の同人誌である『イルミナシオン』と『しあわせはっぴーにゃんこ』(この二冊も出会った記念にくれた)、ヘーゲルの『精神現象学』と『臨床家のための精神分析入門』があったのは覚えている。
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他にも数冊有ったが、なぜそれらの本は覚えているかというと、最終的に彼から借りた(ないしは貰った)からだ。そして、まあ、カラオケだし歌おうとなり、Beetlesの「yellow submarine」をいれて歌った(まあ、僕は緊張と恥ずかしさであまり歌わなかったし、英語だしよく知らないしで歌えなかったが)。彼は歌はそれほどうまくなかった。
あとなんだったかな、Deep Purpleのよく知らない曲も歌っていた気がする。
Deep Purple - Smoke on the Water
しかし、歌よりは色々と話すことが多かったのだけれど、僕が演劇をしているということで「ドラックぐらいやらないと」としきりに進めてきて怖かった。さっきのプロテインもドラックだったのかもしれないと思って確認したけれど、プロテインはプロテインだった。 あと、読むといいよといろいろな本を紹介してくれたり、思想家を上げてくれたりした。小説は筒井康隆『笑うな』とか三島由紀夫『音楽』とか大槻ケンヂとか挙げていた。
僕が愛に興味があるという話になると、あ、そうそうその時の読書会でルーマンの『情熱としての愛』を取り上げるから誘われたのもあったのだけれど、その本とか、『「切り」つつ「結ぶ」メディアとしての〈愛〉』という論文(これはその日の読書会のために読まされた)とかギデンズの『親密性の変容』とか、デカルトの『省察』とか挙げていた。
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また、僕がSEXをしたことがないという話になると、風俗に連れて行ってあげるとか、女の娘を紹介すると言ってくれた。下世話な話ちょっと期待したけど、メンヘラ女子を連れてこられるのではないかとドキドキした。ちなみに、その数カ月後童貞ではなくなった。あと、機械論とか、リオタールとか、ニーチェ、ドゥルーズ、ネットワーク理論とかも勧められた。ネットワーク理論の話の時に、ヘーゲルの言う絶対知はGoogleなんだよとも言っていた。これらのことはメモしてあったのだけれど、それは彼がメモすると良いよと助言してくれたからだった。こういうふうい文章を書く時に役立ってくれているのでありがたい。この時勧められた本は買ったり、買ってなかったり、彼から買ったり、読んだり、読んでなかったりする。
そんな訳で、今となってはそれなりに楽しく過ごしていたわけだけど、当時は緊張と何より圧倒されていた気がする。彼との会話はその後も何度もするわけだけど、哲学、思想の専門用語が頻出し、情報で殴られているような感じで、知識もなかった僕は非常に疲れた。また、なんだか異常にテンションが高かったのと前述のように早口なのもそれに輪をかけていた。
ぶらぶら街歩きwithはるしにゃん
しかし、さすがにカラオケを出る頃にはある程度なれていて、軽口を叩けるくらいにはなった。店内にいる間は、野球部が着ているようなインナー姿だったのだけれど、外ではコートと帽子を身につけていたので、素直におしゃれな服ですねと言うと、高いことをアピールされた。彼は外でも大きな声でよく喋って、さらに道行く知らない人にも話しかけまわるので、一緒に歩いている身としては結構恥ずかしかった。その後は読書会に行く予定だったのだけれど、しばらく時間が有ったので町中をブラブラした。あ、ちなみに彼は働いているホストクラブの給料が入ったばかりだったようで、カラオケはおごってくれた。会計の際に3000円渡されてこれで払ってと言われたので払ったら、1500円くらいで、お釣りを返そうとしたらあげると言われて、ホクホクだった。
初めて来る街だったので、僕は物珍しく歩いた。最初は雑貨店でに寄って、彼のメガネを買った。店員さんにすごく話しかけていて、恥ずかしかった。買った後、お腹がすいたのでご飯を食べようということになって、何がいいかと聞かれたので好物のラーメンと答え、ラーメン屋を探すことにした。途中、他の店があったのでそこでも良いかと言われたが、僕は頑なにラーメンにこだわり彼は呆れていたようだった。キャバクラや風俗、メイド喫茶に彼は行きたがったけれど、昼間だったのでやっていない店が多く、僕もラーメンを食べたかったので行くことはなかったが、今度行きたいねと話した。ラーメン屋を探す途中、古本屋があって、彼が寄りたいとのことで、入った。所謂個人経営の静かな古本屋だったのだけれど、そこでも相変わらずで、僕は店主さんにうるさくてすいませんと謝ったりしていた。この頃には、彼の保護者の気分になっていた。彼は店中をウロウロとして独り言を言いながら沢山本を見繕った。5000円だったか、10000円だったかくらい買っていたように思う。君も何か本を買いなさいと言われて、彼と相談し、700円でバタイユの『エロティシズムの歴史』を買った。まだ読んでいない。
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その後は遂にラーメンを食べた。チェーンの家系ラーメン屋だ。その頃には時間もいい時間になっていたのだけれど、彼はあまり気にしていないようだった。会場の場所もあまり覚えていないのに。でもまあ、急いで食べなよと言われたので急いで食べた。彼はさっき買った本を全部出して、読んでいた。カラオケでもそうだったけれど、座ると本を全部出すのは彼の癖のようだった。結局彼はラーメンをあまり食べなくて、残してお店を後にした。ここも彼の奢りだった。
読書会
そして遂に読書会にやってきた。会場は彼の知人の経営するBarだった。会場には品のいいおじさんがいてオーナーさんらしかった。その後、もう二人、おじさんとお兄さんAが来た。そのころには彼の相手をするのも疲れていて、また、緊張したけれど、他の人がいるのにかなり安心した。読書会はさっき言ったように『情熱としての愛』を取り上げていたのだけれど、はるしにゃんがこの本はつまらないと言って、早く終わらせて、色々なことを話した。多くは専門用おが奥手分からなかったが、ここでわかったのは今日の彼はなにかおかしいということだった。話を聞いていると彼は、実際メンヘラであるらしいのだけれど、今日は大変、躁の状態であるらしかった。そして、会場に入った後の彼はどんどん幼児化していた。その日のハイライトは、後にやってきたお兄さんAから、どうやらしていたらしい借金を返したいが、さっき上記のように散財したから、返せないという場面だった。お兄さんBは今日返す約束だからということを主張し、彼は後で返すの一点張りで議論は平行線を辿った。最終的に彼は「俺が死ねばいいんだな」という結論至り、周囲は困惑していた。彼にお金は貸すまいと思った。結局期日は伸びた。その議論の間、さっき買った本を売るだたったかで、彼は出て行ったので、オーナーさんとおじさんと話した(お兄さんAはその議論が始まる前くらいに帰った)。その時間は大変平穏で、気の休まる時間だったし、慣れてきていた、彼の異様さというか、メンヘラ感を再認識した。そして、同時に彼と親しくしていくと、自分も彼のようになってしまうのではないかと感じて怖くて、少し距離を取ろうと思った。それは実際、後の彼との関わりに反映されていて、彼から誘われた2回会う以外にも彼にイベントに誘われたりしたことがあったが行かなかったのもそれが理由だ。今となってはもっとあっておけばよかったなと思うが、時すでに遅しである。
別れて後
そんな感じで、読書会は終わって、駅まで彼と一緒に帰った。彼はなんやかんや、結構楽しそうだったので、まあ、良かったのかなと思った。彼から本を2冊借りて彼の同人誌を2冊貰ったので、その感想と、本を返すためにまた会うことを約束して、彼から求められた握手をし、帰路についた。家についても、彼との交流の残滓は残っていて、まさに興奮冷めやらぬという感じだった。僕は今まで会ってきた人間の中で、彼ほど所謂、事件のような、嵐のような人間は見たことがなかった。本を借りているので、必ず会わなければならないのだけれど、上記の通名の出会いたいような会いたくないような、ざわついた気持だった。しかし、結果はわからないけれど、きっとまた事件のような日になるに違いないと思い、『イルミナシオン』を読んでその日は眠った。
〜続く?